皇帝陛下の花嫁公募
 今更、そんなことを思って仕方ない。けれども、それは事実だった。

 素性も知らない男性に恋をして、それがどうなると言うのだろう。こんなに浮き浮きとした気分になったとしても、彼と結婚できるわけでもない。

「君が……皇帝の花嫁候補だから?」

 リゼットははっとして顔を上げた。

「ど、どうして知ってるの?」

「皇帝が花嫁を募集した話なら、みんな知っている。公募だったんだろう? 誰でも応募できるという話だ」

「正確には違うと思うわ。だって、それならもっと多くの人が宮殿に押し寄せてきたでしょう? あそこにいたのはある程度以上の階級の娘達だけ。たぶん限られたところへしか花嫁募集の話は通達されなかったんだと思うわ」

 リゼットがそう言うと、彼は一瞬黙った。目がきらりと光ったようだったが、気のせいかもしれない。

「……なるほど。だが、ここでは噂が広がっていた。皇帝が広い範囲で花嫁を探していると」

「まあ……。そうなの。それなら、庶民の娘が宮殿に出かけても、門前払いされたかもしれないわね。わたしなんか、危うく追い出されそうだったもの」

「追い出されそうだった? 何故だ?」

 アロイスの口調が何故だか厳しくなった。
< 70 / 266 >

この作品をシェア

pagetop