皇帝陛下の花嫁公募
「あまりに田舎の国出身だし、流行のドレスでもなかったから、言ってる通りの身分かどうか疑われたのね。父が身分を証明するものを持たせてくれたからよかったわ」

 すると、彼の身体から緊張が解けていくのが判った。

「そういう意味か。てっきり君の身に何かあったのかと……」

「優しいのね」

 リゼットは自分の身を案じてくれた彼の気持ちが嬉しかった。

 だが、これ以上、彼に気持ちを寄せてはいけない。恋に落ちたとしても、それにのめり込むことは許されないのだ。

 どのみち、わたしは誰か他の人のところに嫁ぐんだもの。

 彼に寄せる気持ちが深くなれば、自分が傷つくだけでなく、彼も傷つけてしまうかもしれない。

 今まで恋に落ちたことがなかったから、夢物語みたいに恋がしてみたいと思っていた。けれども、実際に恋をしていると気づいた途端、これは許されないことなのだという意識が強くなってくる。

 今まで恋をする相手のことなんて考えたこともなかったんだもの……。

 今はすぐ隣のその人がいる。

 でも、気持ちを抑えなくては。たとえ抑えられなくても、心のままに振る舞ってはいけない。

 リゼットは王女としての義務と素直な気持ちの狭間で揺れていた。

 
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