MちゃんとS上司の恋模様




 これは俗に言う、Sの対になる言葉ではないだろうか。

 いやいや、とんでもない。お兄ちゃんが言っていた“ドSほいほい”の威力が凄まじかっただけ。それだけのはずだ。

 私は間違ってもMじゃない。いたぶられて弄られて喜ぶ性癖はないはずだ。たぶん……
 藍沢さんにホテルに連れ込まれた日以降、暇があってもなくても須賀主任のことを考えている自分に愕然としてしまう。

 最初は「鬼上司め〜!」と言って、愚痴に近いことを思っていたのだ。
 だが、気が付けば須賀主任の良いところに目が行き、「さすがだよなぁ」と締めくってしまう。

 だが、問題はここからだ。

 どうしても、どうしても……あの日の夜のこと———須賀主任が私にキスをしたこと———を思い出してしまうのだ。

 藍沢さんに襲われかけた、ということもショッキングな出来事ではあったのだが、私的には藍沢さんよりも、須賀主任とのことの方が強烈なインパクトを抱いてしまっている。

 須賀主任の顔を見るたびに、考えるたびにあのキスを思い出してしまうのだ。
 どうしてあの日、須賀主任は私にキスをしたのだろうか。考えても考えても答えなどでない。

 直前に彼が呟いたひと言———処女じゃなくなればいい———を実行しようとしたのだろうか。

 キスひとつで、と言われるかもしれないが、私にしてみたら人生初、それもあとにも先にも一回こっきりしかないファーストキスだったのだ。

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