MちゃんとS上司の恋模様
時計の針は五時半を少しだけ過ぎた。これで今日は帰ることができる。
パソコンの電源を落とし、さて帰ろうかと腰を上げようとしたときだった。
目の前にある電話が鳴る。嫌な予感しかしない。
だが、電話を取らないわけにはいかないだろう。心の中で盛大なため息をつき、再び椅子に腰を下ろす。
そして、イヤイヤながらも電話を取ったのだが、やっぱり見て見ぬふりをしたかったとため息をつく。
電話の相手は同じ課の営業さんだった。
『頼むよ、麦倉さん。この前作成してもらった書類あっただろう? 俺、品番間違えていてさ……もう大ピンチなんだよ。訂正してFAXして貰えないかなぁ』
「……」
イヤです、とはとても言えない。明日の朝一番に商談があるらしく、それまでに訂正した書類が欲しいと頼まれたら……頷くしかないだろう。
明日一番ということは、私が明日出社してからでは手遅れだ。今、やるしかないだろう。
時計を確認する。今から訂正し始めれば一時間もすれば終わるだろうか。
その旨を伝えると、電話口の営業さんは声を弾ませた。
『ありがとう、麦倉さん。お土産買って帰るからね』
「あはは、気をつかわなくてもいいですよ。今日は特に用事もありませんし。すぐに取りかかりますので」
すごく恐縮している営業さんに、私は何度も大丈夫だと言って安心させたあと、電話を切る。