MちゃんとS上司の恋模様




 あるわけないじゃないか、ボケー! と叫ぼうとしたとき、藍沢さんがなぜか床に吹っ飛んでいた。
 大きな音で我に返った私が見たのは、肩で息をして髪を乱している須賀主任だった。

 少し離れた床には、藍沢さんが唸って蹲っている。
 藍沢さんは椅子に掴まり、ヨロヨロと立ち上がった。

「須賀か……お前、帰ったんじゃなかったのか?」

 ギリリと歯ぎしりがしそうなほど苦い顔をする藍沢さんを一瞥したあと、須賀主任はあ然として立ち尽くしている私の肩を抱いた。
 須賀主任の香り、温もりを感じて、ようやくホッと息を吐き出した。

 ソッと彼の胸に添う。縋るように須賀主任に近づく自分に驚きが隠せない。
 我に返って離れようとしたが、須賀主任はそれを拒み、今度は私を腕の中に包み込んだ。

「ロビーで麦倉を待っていた。顔見知りの守衛と話していたら、まだ営業二課も人が残っていると聞いて慌てて戻ってきた」
「……」

 藍沢さんは無言で須賀主任を睨みつけている。それを無視して、須賀主任は息を吐き出す。

「お前が、麦倉に危害を加えるかもしれないと胸騒ぎがして飛んでくれば……案の定だ」
「っ!」

 息を呑む藍沢さんに、須賀主任は地を這うような低い声で言う。


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