MちゃんとS上司の恋模様
「多田。お前は地下鉄だから、方向真逆だろう?」
「フン。そんなの大丈夫だし。さぁ、真琴ちゃん。帰りましょう」
久美さんが私の腕に手を伸ばしたときだった。着信を知らせるメロディーがオフィス内に響く。
すると久美さんの眉間に深く皺が刻まれた。どうやら着信メロディーは久美さんのスマホから流れているようだ。
久美さんはカバンを引っ掴み、慌ててスマホを取り出して電話に出た。
「もしもし。どうしたの?」
電話は久美さんの旦那様からのようで、深刻そうな雰囲気だ。一体、どうしたのだろう。
私は心配になって久美さんの背中を見つめ続ける。
その間も久美さんの口からは「大丈夫なの?」など電話口の旦那様を労る言葉が続く。
会話を終えて電話を切ったあと、私たちを振り返った久美さんは眉を下げていた。
「旦那が風邪ひいちゃったみたいで、すぐに帰らなくちゃいけなくなった……」
「久美さん! 早く旦那様のところに行ってください。私は大丈夫ですから!」
今までにだってこのぐらいの時間に仕事が終わり、帰宅することだってあった。
それに友人たちと遊んで帰るときなんて、午前様ってことだって多々ある。
そう説得するのだが、久美さんは難色を示している。
なんとかして久美さんを説得したいのだが、なかなか頷いてはくれない。