MちゃんとS上司の恋模様




 すると藍沢さんはキレイな笑みを浮かべて「どういたしまして」と言うと、私の肩に優しく触れた。

「じゃあ、また今度もよろしくね」
「は、はい! 頑張ります」

 自分の仕事ぶりを評価してくれたこと、そして藍沢さんの気遣いが嬉しくて声が思わず弾む。
 そんな私を見て、藍沢さんはゆっくりと優しく目を細めたあと、軽く手を挙げて営業一課のオフィスを出て行った。

 その後ろ姿を見て、私はフゥと息を吐き出した。
 どうやら自分でも知らない間に緊張していたようだ。凝り固まった肩をグルングルンと回す。

 有名人やアイドル、とにかく憧れている人を目の前にすれば誰だって緊張もするだろうし、気分も高揚することだろう。
 今の私はまさにその状態だ。

(やっぱり藍沢さんはいい人だなぁ〜。会社のアイドルの名にふさわしい御方!)

 改めて藍沢さんと人となりを確認していると、久美さんが言っていたことを思い出す。

 いい噂を聞かないから気をつけなさい、そう久美さんは言っていたが、藍沢さんに限ってそんなことはないはずだ。
 きっと人が良すぎて妬まれているんだろうなぁ、目立つというのは時にして損なものなのかもしれない。

 そんなことをぼんやりと思ったあと、時計を見る。
 時計の針は十六時を差している。定時まであと少ししかない。

 この書類を早く仕上げないと、またうちのドS主任が文句を言ってきそうだ。
 私は慌てて視線をパソコンのディスプレイに移し、仕事を再開した。


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