不器用な彼女
「…私、騙されていたみたいです。社長には…奥さんが居たみたい」

「ええっ?」

「そんな人だとは…思ってなくて。今も正直…信じられないんです。

社長のとこで働いて3年になりますけど、今まで奥さんが居るって全く分からなくて…情けないです」

お爺ちゃんはポケットからハンカチを取り出すと詩織に渡した。

「子供はね、神様からの授かりものなんだよ。命は奇跡なんだと思う」

「それは分かってます。まだ小さくたってちゃんと人の形をしていて…エコーを見た時、ただただ愛しいと思いました。産みたいと思いました。

…失うのが…怖いと思いました」

「育てる自信がないんだね?」

「はい」

お爺ちゃんは引き出しから名刺を取り出す。

「産むと決めたら連絡しなさい」

「はい?」

「こんな年寄りでも力になれると思うよ?これも何かのご縁だ。こんなに悩んで苦しんでいるお嬢さんを見たら…何でもやってやりたくなるじゃないか」

たまたま道で転んだところを助けて貰っただけの関係。それなのに、このお爺ちゃんは“力になる”なんてオカシナ事を言う。
“何でもやってやりたくなる”なんてどっかで聞いたことあるセリフだ。

何も解決なんてしていないけど、でも、その言葉に救われた。


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