不器用な彼女
デスクに手をついて体勢を整える。

デスクから手を離した時、自分の手をついていた部分、透明なデスクマットの下に見覚えのある名刺を見つけた。

“turquoise Design Office 櫻井 詩織”


心臓がドクン!と音を立てる。




「爺さん、これ…この名刺…」

「あぁ、それは…内緒だ」

「内緒って!」

「いや、以前そこの大通りで派手に転んだお嬢さんでね、膝から血を出して、目から涙を零して、ついでに嘔吐してて…放って置けないから手当したんだけど…

勤め先の社長に騙されて…でも妊娠してて…」


勤め先の社長って俺じゃん?


「何だか気になるお嬢さんで、何故か力になってやりたいと思ってね、“産むと決めたら連絡しなさい”と伝えたんだけど…」

「…で、…その子は…?」

「ん、昨日かな、退院の連絡を貰ってね、実家に帰って子供を産むって言ってたな」


(!!!!!!!)

「爺さん!ありがとう!」

医院を飛び出すと大通りでタクシーを捕まえた。


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