不器用な彼女
「詩織チャン、先に帰っちゃうよ?」

「まだ終わらなくて…お先にどうぞ。お疲れ様でした」

「社長、私帰っちゃいますね〜」

「あぁ、お疲れ」

一美が帰り静まり返る事務所。あれだけ仕事を山積みされたのに、ちゃんと終わらせたのか、途中で辞めたのか、一美は帰ってしまった。
元々一美が帰ったら静かな事務所だったのだけど、今日はいつもにも増して静かに感じる。

今日は残業したくなかった。
社長と二人きりになるのは避けたかった。

二人きりにならなきゃ聞きたい事も聞けないけれど…急に格好良くなっちゃった社長を前にすると余計に緊張してしまう。

「櫻井、お前、今日おかしいぞ」

(おかしくもなるわ!)

「くだらねぇミスばっかり」

(仰る通り!)

「…はい。すみません」

社長の顔がちゃんと見られない。
ドキドキしちゃって。

社長の手が自分を抱いたかと思うと社長の手すら見れない。
唇が触れたのかと思うと唇すら見られない。

(中学生女子か!)


こりゃ重症だわ。




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