やさしく包むエメラルド
「うちの息子、気がきかなくてごめんね。風があるって言っても夏なのに」

からんころんと涼しげな音色を響かせて、おばさんが冷茶を運んできた。

「あら? 啓一郎は?」

「なんかお部屋に行かれたようです」

「重ね重ねごめんなさい。悪気はないんだけど、昔からとにかく人見知りがひどくて」

行き場をなくした三つ目の冷茶をお盆に乗せて、おばさんもテーブルにつく。

「いえ、わたしがちょっと調子に乗ってからかい過ぎたのが良くなかったんです。気分を害されてしまったかもしれません」

初対面に近いのに、あんなゲームのようなやり取りを強要したのは、やり過ぎだったかもしれない。

「からかう?」

おばさんが驚いて、口に運びかけた茶器を茶托に戻した。

「啓一郎を?」

「はい。お話してみたら思ってたより反応が面白かったのでつい。本当にすみませんでした」

おばさんはほうっと息をついて、さきほど彼、啓一郎さんが上って行った階段に目をやる。

「愛想はないけどそうそう怒る子じゃないから大丈夫。それより、啓一郎がこんなに早く人と打ち解けるなんて珍しいわねえ」

「いや、打ち解けたってほどでもないですけど」

二階には啓一郎さんがいるはずなのに物音ひとつしない。
気配も感じられないほどにしずかだった。

「うちはお父さんも無口なひとだから、家族でいてもあまり会話がなくて。さっき玄関に入ったとき、楽しそうな声がするからびっくりしちゃった」

おばさん自身もおっとりと物静かな話し方をする。
この家では茶碗や箸の方がずっと饒舌なのだろう。

ガラスの茶器の中で新芽のようにやわらかな緑色が、氷とともに楽しげに揺らいでいた。





< 13 / 104 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop