やさしく包むエメラルド
5. 七色カレーライス


豚バラブロック、鶏もも肉、セロリ、キャベツ、玉ねぎ、マイタケ、人参、大根、ブロッコリー、ハム、冷凍餃子、豆腐、納豆……宮前家のキッチンの床に、わたしは嬉々としてビニール袋から食材を並べた。

「ダメになっちゃうなって諦めてたんです」

強制的に押し付けたアイスは溶けていて、おばさんは小皿でオレンジ色の滴を受けながら食べ進めていた。

「根菜類は常温で大丈夫だから持って帰って。うちにもあるし。餃子は焼くとして、お昼どうしようかしら? 買い物してなかったのよね」

「焼きそばにしませんか? ちょうど余ってたんです」

買いだめしすぎちゃって、と3食入りの袋をふたつ取り出した。

「ひとり暮らしでこれ? 一週間焼きそば食べるつもりだったの?」

居間にいる啓一郎さんがキッチンに並ぶ食材を見て声を上げた。

「買い物は出会い(セール)とパッション(激安)ですから」

「いや、買い物こそ計画性だろ」

真っ向から意見が対立したところで、

「俺は一週間焼きそばでもいいよ」

電気屋のチラシを見たまま、まさかのおじさんがわたしを擁護してくれた。

「ですよね! 一週間お祭り気分になれるし」

否定も肯定もせずに、おばさんは冷静に食材と向き合う。

「他のものはともかく、この豚バラと鶏肉は使っちゃった方がいいわね。でも焼きそばには向かないし。何作るつもりだった?」

「カレーです。具材ゴロゴロの普通カレー。鶏肉はパッションで」

ブロック肉もわたしに特別なこだわりがあったわけではなく、たまたまその日スーパーで豚コマより安く売られていただけのものだった。

「じゃあ夜はカレーね。カレーなら作っておけば暗くなってもあたためるだけでいいし」

「せっかくなので他の野菜も入れちゃいます? おろし金ですったら何でも入れられると思うんですよね」

豆腐や納豆を手にしてそう言うと、啓一郎さんが慌ててキッチンに入ってきた。

「カレーを闇鍋にする気か!?」

「だってもったいないし。ルー入れちゃえば食べられますよ? 暗ければ何入っててもわからないですって。ねえ?」

笑顔で同意を求めたのに、さっきはやさしく手を差し伸べたおじさんは、チラシから顔を上げても何も言ってくれない。

「豆腐と納豆は今そのまま食べたら? 他のはなるべく頑張るけど、無理はしない方がいいと思うわ」

「それもそうですね」

おばさんの意見はもっともなので、わたしは豆腐と納豆をとりあえず冷蔵庫に入れた。


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