やさしく包むエメラルド

おばさんが餃子を焼いて焼きそばを作り、わたしが豆腐に納豆をかけてテーブルに並べる。
朝の残りだというなめこと油揚げのお味噌汁をつけたら、組み合わせはともかくそれなりに立派な食卓になった。

「おばさん上手! ちゃんと野菜と麺が絡んでる~」

「そんな。袋の裏見て作っただけだし」

「わたしが作るとね、野菜と麺がぜんっぜん絡まないんです。麺をすり抜けて野菜が下に集合するって言うか」

「よく混ぜればいいんじゃない?」

「混ぜようとして、こう、下から上に持ってこようとしても麺だけぐるって回転して、やればやるほど麺がまとまっていくんですよね」

「そうなの?」

「あれ、頑張れば最終的にはわたあめみたいに箸に巻き付いて、歩きながら食べられるようになるかも」

わたしが大きなひと口を頬張りもぐもぐ咀嚼すると、居間には沈黙が降りる。
しばらく待っても誰も話さないので、無難な話題を投げ掛けた。

「停電、いつ終わるんでしょうね」

「そうねえ」

「明日と明後日は土日だから仕事ないけど、月曜日までに復旧してますかね? 様子見に行った方がいいのかな?」

携帯は電池節約のためにあまり触っていないけれど、会社からの連絡はない。
何かできることを探して、少しでも仕事をした方がいいのだろうか。

「大きな交差点には警察の人が立って誘導してくれてるけど、それでもまだまだ混乱してるから、無理に出歩かない方がいいと思う」

今朝一度職場に行った啓一郎さんがそう言った。
彼の皿はもう空になっている。

「そうですか。みんな大変だな」
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