やさしく包むエメラルド
“一般的なカレーライス”の作り方は、一体何百通りあるのだろう?
「このくらいの大きさでいいですか?」
「うん、いいと思う。お肉をあれだけ大きく切ったんだから、人参も同じくらいにしないと」
「そういうものですか?」
「具材の大きさを揃えるのは基本だと思うけど……」
「そうなんですね。考えたことなかったです。いつもそのときの気分で切ってたので」
ざっくざっくと包丁を入れている人参は、先細る形状に合わせてどんどん小さくなっていっている。
同じように切っていたはずなのに不思議なことだ。
「大きさが違うと煮え方にもバラつきがでるでしょう?」
「いつも圧力鍋でシュッてやるので」
どろどろに煮崩れているから何が何だかよくわからない。
それで不自由したことはないけど、これからは気にしてみようと思う。
「お料理は適当でもなんとかなりますけど、お菓子作りはダメなんですよね。だから苦手です」
「お菓子作ったりするの?」
意外だという態度を隠しもせず、おばさんは聞く。
「わたしも一応女の子ですから、バレンタインの経験くらいありますよ」
フードプロセッサーが使えないので、おろし金でセロリをショリショリしながら切なげな顔をして見せた。
「友達が『マドレーヌならかんたんだよ』って言ってたのを鵜呑みにしたんですよね。計るの面倒だったから全部目分量で生地作って、アルミカップに入れて、バレンタインだからコーヒービーンズチョコレートを一粒ずつ乗せて焼いたんです。マドレーヌを作ったはずが、完全な甘食が出来上がりました。奇跡的に!」
「甘食!?」
込み上げる笑いでマイタケを刻んでいたおばさんの手も止まる。
「もっさもさで身体中の水分奪われそうなやつ。一応渡したけど、迷惑がられました」
ショリショリショリショリッ!!
苦い恋の思い出に、セロリをすりおろす手にも必要以上の力が入る。
「あら、啓一郎は子どものとき甘食好きだったわよ。あんなにパサパサしてるのにお茶も飲まずに食べてたくらい」
「『おいしい』って言ってくれる人がいたら、作る側もやりがいありますよね」
料理ができないわけではないけれど、おいしいと褒められた経験がほとんどない。
誰か褒めて伸ばしてくれないかなと、クールな男性と穏やかな男性を妄想する。