夏が残したテラス……
私は、そんな風にしか聞けなかった。本当は先に謝らなきゃいけなかったのに、不安な気持ちが先に出てしまった。


 海里さんの口から出る言葉が怖くて手が震えていた。それに気付いたのか、海里さんの手が私の手に重なった。


「婚約はしていない……」

「えっ…… でも……」

「誰がそんな事を言ったんだ?」

 海里さんは、少し怒ったように眉間に皺を寄せた。


「由梨華さんが、海里さんと婚約したって…… だから、ここにはもう来れないって……」


 海里さんは、大きく息を吐いた。

「確かに、縁談の話はあった。でも、断った……」

「本当に?」


「ああ……」

 私は、ほっとして力が抜けた。


「ふふっ……」

 海里さんが鼻で笑った。


「な、何よ?」

 私は、海里さん笑い方にムッとして睨んだ。


「ごめん。それで、奏海があんなに怒ってたんだと思って……」


「あっ…… ごめんなさい…… 酷い事言って」


「ああ。本当にショックだった」

 ショックと言いながらも海里さんの口元は緩んでいた。


「だって、色々な事一気に言われて、頭の中がぐちゃぐちゃで……」

 言い終わらないうちに、海里さんにギュッと抱きしめられた。
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