幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
このネクタイの弛い締め方は『アンルージュ』社長のアドバイス通りなんだけど、あっさりと涼介に直されてしまった。スーツ姿はややストイックな印象になる。


「これで少しはマシか……?」


そうやって涼介は私を男に仕立てた事を、後になってから「すごい後悔してる」と教えてくれた。

その理由のひとつが、私がオークの社員さんに変態下着マニアと認識されるようになったことだ。同じ下着好きでも男と女でイメージは全然違うらしい。


「見ただけで女性の胸のサイズならだいたいわかりますよ。ブラが合ってるかどうかもね」


「環君、すっごい特技持ってるな……」


さっき挨拶した山下さんが目を輝かせている。山下さんは少し日焼けしてキリっとした瞳の、ややワイルドな印象の男性だ。

下の名前を聞いたら「名前嫌いだから山下って呼んで」と言われた。どうしてだろう? 気になったけど、嫌いと言われればこれ以上は聞きづらい。


「それなら近くにいる女の子のサイズを端から言ってってよ」と冗談めかす山下さんを、「こら止めろ」と涼介が差し止める。

心配しなくてもそんなことは言ったりしない。女の子は胸が大きくても小さくても、みんな必要以上にコンプレックスを感じているのだ。


…………と思っていたら、スタイル抜群の女性が「私のサイズ当てていいよ」と言ってくれた。本人が良いのなら遠慮することはない。


「アンダーは67前後、右がEで左がF。ハーフカップのブラは可愛いけどバストが豊かな人には肩懲りの原因になるよ。撫で肩だからストラップもずれやすいでしょう?」


「当たってる……。それに左右でサイズ違うなんて知らなかった……」


「そういう人多いんだ。あなたはきっと胸を寄せて上げるブラよりもサイドをスッキリ覆う方がつけ心地もラクで綺麗に見えるんじゃないかな?」


『アンルージュ』から取り寄せたランジェリーの在庫が置いてあるので、お勧めのブラを即席のフィッティングルームで試して貰う。お店でやっているように調整しようとしたら、「環くんが見るの!?」とびっくりされた。

いつもと勝手が違うなと思いつつ「できれば」とお願いしたら「……あんまり、見ないでね」としぶしぶ直させてくれる。


「ニットを来てるとこっちのラインの方が自然で綺麗でしょう?ほら、柔らかな曲線で触りたくなる」

「っ……ありがとっ。これ買うね……!」


予想外に下着まで売れたけれど、彼女は顔を真っ赤にして逃げるように行ってしまった。男性だとこういうふうになってしまうのか……。


振り返ると、頭を抱えた涼介と驚いて口を大きく開けた山下さんがいた。


「初対面の女に胸を見せてもらえて、触った上に惚れさせる……。ヤバイな環君」


「直接は見てないし、やらしいこととか考えてないからね!」
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