幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
呆れた顔をした涼介に呼ばれて、書類を手渡される。


「ここで店の営業するなって。環のIDカード作るから、住所と氏名書いて」


「IDカード?」


涼介は首に下げてるカードを見せてくれた。オフィスに入る時に使うらしい。そういえば涼介はここに来る時にドアのセンサーにカードをかざしていた。

カードには涼介の写真とともに

Evergreen oak Co., Ltd.
ブランドマーケティング部門 マネージャ
水瀬 涼介
Ryosuke Minase

と書いてある。名前以外の意味は分からないけど何だか格好いい。

書類を記入して手渡すと、涼介の眉毛がぴくっと上がる。


「あれ、何か間違えて書いちゃった?」


「河原? お前、河原 環(かわはら たまき)って」


「言ってなかったけ?私、今は苗字変わってるんだ」


「………………そう」


書類を受け取った涼介は「総務に行ってくる」とそのまま急いでオフィスを離れる。表情が険しく見えたけれど、具合が悪いのだろうか。


気になったものの、その後は涼介に聞くタイミングを失ってしまった。


山下さんが社内を案内してくれたので、会社のビルを歩き回っていた。会社の中にコンビニやお洒落なカフェまであり、全てが洗練されて広々としている。


「この会社、オークってどんな会社なんですか?」


「なんだ、環くんは知らずにここに来たのか?商社だよ、総合商社」


「総合商社……って何ですか?」


「あはは、環くん。学校の勉強とかあんまりしてこなかったタイプでしょ」


山下さんは改めて会社について説明してくれた。

オークとは、正式には『エヴァーグリーンオーク』という名前で、大きな財閥のグループ企業らしい。


「貿易業はもちろん、各企業間のコラボとか、エネルギー、土地開発まで稼げることなら何でもやる会社だよ。逆にビジネスにならないならシビアに手を切る。

『アンルージュ』を買ったのだって慈善事業じゃないし、儲けるための戦略なんだ。

だからこれまで通り赤字が続くなら、潰すことになる」


「えっ!?」


「涼介は何でも救いたがるけど、俺はそういう方針には反対でね。

正直、自力で何とか出来ない会社なんか潰れれば良いと思ってる。それが自然でしょ」


山下さんはアンルージュを助けてくれる気はないんだ。思わず不安になって立ち止まると「思ってることが顔に出過ぎ」と笑われる。


「とはいえ仕事だからね。俺もプロとして『アンルージュ』の戦略は練るよ。

せいぜい俺に潰されないように、環くんは、『アンルージュ』の強みになるような商品のこと考えとけよ」
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