幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
そんな事を言いつつも、山下さんは親切にも私の歓迎会を開いてくれて、同じチームで働く数人で会社の近くの居酒屋に行った。

自己紹介代わりに下着の呼び名について語ったら「変態」と笑われたけど、みんな楽しく話をしてくれて嬉しかった。


「……ズボンの事もパンツって言ったりするでしょう?男物のパンツも同じ呼び方だし。女性の下着の言い方としてはどうも雑な気がするんですよね」


「じゃあ環くんはなんて言うの? パンティー?」


「って言ったらオヤジくさいじゃないですかー。変にエロいし」


「オヤジくさいって言うなよ!」


みんなが笑っている中、涼介は煽るようにお酒を飲んでいる。飲み会ではいつもこうなんだろうか?


「一応、業界では『ショーツ』推しなんですよ。でも知名度ではまだパンツに勝てなくて。だからパンツに代わる良い呼び名が無いか日々悩んでるんです……」


「環くん毎日そんなこと考えてるなんて、なんつーか残念なイケメンだな」


「ありがとうございます」と言うと「誉めてねーよ」と突っ込まれた。ばかばかしい話で盛り上がっている中、ふと涼介が席を立ったのでトイレに行くふりをして探しに行く。


「ここにいたんだ」


涼介は喫煙所で火の点いた煙草を持って、ただぼんやりと立っていた。


でも声をかけると、タバコの火を灰皿に押し付けて消してしまう。


「煙草吸うの?」


「普段は吸わないけど、今日は悪酔いしそうだったから」


髪に手をあてた表情は物憂げで、やっぱり何だか様子がおかしい。


「具合悪い? もう悪酔いしてない?」


「……そうかも」と言ったかと思うと、急にぐいっと手首を掴まれた。彫りの深い顔立ちが間近になってびっくりして立ち竦む。


「俺があげた下着、旦那に見せたりした?

……それで抱かれたりとか、した?」


「ななななななななに言ってんの?

ホントに凄く酔っぱらってるでしょ涼介何言ってんの!?」


動揺して口をパクパクさせていると、さらに焦れたような重たい視線が向けられた。


「……ごめん、どうしても抑えられない。犬に噛まれたと思って今だけ我慢して」


「え」

背中に涼介の腕が回される。


堅くて強い腕に全身を覆うように抱き締められて、どういうわけか身動きもできない。


「勝手に結婚なんかしてんじゃねーよ……」
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