幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
ボールを触って息を吐き、道に迷う自分を上から眺めるように感覚を研ぎ澄ませる。
シュートの構えからボールを放つと想像どおりの弧を描き、シュッと静かにゴールに吸い込まれた。
「参ったな…想像以上だ」
「教えて、どうして嘘なの?涼介は子供の頃も今もずっと私を救おうとしてくれたのに」
勢い込んで問い詰めても、涼介は呆けたように視線を向けている。
「ねえってば」
「悪い、バスケする環を見るのが本当に久しぶりだったから。
綺麗過ぎるんだよ。環のひたむきさも強さも全部が詰まってて、ただ胸を打たれるんだ。」
「ほ、ほめられても誤魔化されないんだから!」
「誤魔化すつもりなんか無いって。…だいたい、環は最初から救いなんか求めてなかったろ。そばに居たくても入り込む隙も無かった。
本当に居場所が無いのは俺の方だよ」
「どうして?だって涼介は誰とだって、どこでだって上手くいくじゃん。私と違って…」
「でも環がいい。環がいなかったら、世界中どこ探しても俺の居場所なんか無いんだ。」
涼介はいつも通り穏やかで、私よりずっと大人びた態度のまま。けれど、ボールを持つ手は少し震えていた。余裕があるように見えるのは、もしかしたらフェイクなの…?
「あっ」
涼介のシュートはリングに弾かれて、ボールが私の足元に転がってくる。
これで得点は1対1。涼介の成功率は100%じゃないし、反則さえ気を付ければ私がシュートを外すわけない。どう見ても圧倒的に有利な状況。
…あと少しで叶う。
涼介が私を放っておけないなら、無理にでも離れなきゃと思った。涼介の『好き』が、可哀想な私を救うための手段なら、淋しさに耐えられる筈もない。
けれど、どうしたらいいんだろう。
生まれて初めて涼介が淋しそうに見えて、いくらボールに触れていても気持ちが静かになってくれない。
汗ばんだ手を拭くためにポケットを探ると、山下さんに貰ったお年玉がカサカサと音を立てる。
〝だから、そういうことなんだよ。救われてるつもりが、本当は相手を救ってたりするんだ。〟
その時に涼介の言葉が過去からずっと繋がって真っ直ぐに心に降りてくる。
言葉にならない感情に押しきられるように、シュートの構えから涼介に思いっきりパスをぶつけていた。