幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「え?」


ボールを受け取った涼介が呆然としてる。


「…シュート、失敗した。」


「失敗も何もシュートしてなくない?」


「だから失敗したんだってば。次に涼介が決めたら涼介の勝ちだね悔しいけど」


気まずくて恥ずかしくて申し訳なくて、体育館の床を眺めてボソボソ言う。本当のことは伝えられない意気地無しだ。
静まり返った体育館で、次第に涼介がくつくつと笑う声が聞こえてきた。


「分かったよ。…分かったから、これ以上シュートのプレッシャー上げないでくれ」


涼介は膝を軽く曲げて、指先から肘、肩の確度まで完璧なフォームでシュートを放つ。高いアーチを描いたボールがゴールリングをくぐり抜けた瞬間に、ぎゅっと熱い腕に包まれていた。


「環…」


またこんなふうに抱きしめてもらえる時が来るなんて思ってなかった。幸せに耐えきれなくて胸がきゅうっと軋むように痛み、肩が震える。


「もう遠慮しないから」


好きだ、と囁く声が聞こえて唇がそっと重なる。これまで経験したどのキスよりも、涼介を近くに感じた。体を預けるとどちらのか分からない胸の鼓動が響く。


「……ごめん。ノート、勝手に持って行って」


「読んだ?」


「うん…ごめんなさい」


「分かった。とりあえず死ぬほど恥ずかしいから記憶を消してくれ」


涼介らしくない必死な声。いつも大人っぽく見えているから意外な一面がすごく可愛い。


「でも、忘れたりできないよ…」


「勝った方の言うことを聞く約束なんだけどな。
拒否するなら他の事にする。その分高くつくから」



ぎゅっと抱き締めていた腕を解いて、涼介が意味深に笑って私の手を取る。手を軽く持ち上げられると、借りてきた猫のように動けなくなってしまった。


「一生、ずっと離さない。それでいい?」


「…うん」


「環の隣を俺の居場所にして」


「…うん」


目眩がするほど幸せな言葉ばかりくれるから、頷くのが精一杯だった。涼介を見つめていたいのに、勝手に視界が滲む。


「じゃあ結婚しよう」
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