幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「……環くん?それで、ストッキングをどう売りたいの?」


「あっ、すみませんぼんやりして。

女性がストッキング面倒だなって思うのはよく分かるんです。欧米では仕事用に身につける習慣はありませんし、基本は毎日はくものではないと思いますよ」


すると、涼介が納得いかないような顔になる。


「利用頻度が落ちたら商品は売れなくなるだろ、環はそれでいいのか?」


「売りたいのは別物。消耗品じゃなくてとびっきりのおしゃれアイテムとして、女性にストッキングを身に付けてほしいんだ」


繊細な取り扱いが必要なので、白い手袋をつけてストッキングのサンプルを探る。


「ストッキングって言うと『パンティーストッキング』とか『パンスト』とか……名前があんまり可愛くないから最近だと『シアータイツ』なんて呼ばれてるけど、そっちを思い浮かべるよね」


小早川さんがうん、と頷いた。


「伸縮性があるのが今時のストッキングなんだけど、全然違うタイプのがあるんだ。ナイロンとかシルク製で、伸びないからはきづらい、おまけに伝線しやすくて扱いが難しい。

でも、これをはいた脚は一目で違いが分かるくらい綺麗でセクシーに見えるよ。」


「そんなストッキングあるの!?」と前のめりになった小早川さんに在庫の中からセパレートタイプのストッキングとガーターベルトを取り出して見せた。


「え……それって……」


顔を赤くした彼女にガーターベルトを手渡す。


「はかせてあげるから、今から試してみてくれない?」


「絶対後悔させないから」と小早川さんに近付くと「最っ低」と頬をパチンと叩かれた。


「水瀬マネージャ、この人セクハラなんですけどっ」


「ごめん、そういうつもりじゃ」


謝る前に彼女は怒って会議室を出て行ってしまって、ドアを閉める大きな音が部屋に響いた。


「くくっあはははっ

いくら環くんでもさすがに駄目だろ。これ、SM女王様的なエロいやつでしょ?さすがに女子は嫌がると思うなぁ」


山下さんが床に落ちたガーターベルトを拾い上げる。両手に広げて「なんかエロい」と興味深げな様子だ。
彼女も山下さんもやっぱりそういう印象なんだ……。


「どうしてもセクシーなイメージが先行してますけど、夏は涼しいし、履き心地もいいから毛嫌いしないでほしいんだけどなぁ……」


「環くん、まるではいたことあるような言い方だな」


「そりゃ、こう見えても下着販売員ですからね。お客様にお薦めする商品は自分でも試しますよ。

……あ、そっか!自分ではいて見せればいいんだ。」


フィッティングに一式持ち込んで着替えようとすると涼介に「馬鹿、止めとけ」と止められる。

馬鹿なのは分かってる。本当は私も気が進まないけど、でも涼介と山下さんに商品の良さを伝えないと何も始まらないのだ。
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