幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
黒いストッキングと試着用のスカートをはいてフィッティングから出る。


「何やってんだ」と渋い顔の涼介。
「男の脚なんか見たくねー」とブーイングする山下さん。


「まあまあ、気持ちは分かりますがそう言わず。左右の脚の違いを見てほしいんです。左は普通のストッキングと同じ素材のストッキング」


「うん……普通にきれいなんじゃない?

ん!?男の脚をきれいと思うなんて目がおかしくなったのか俺……」


「これは比較用なので、右と比べて見てくださいね」


右はナイロン製のちょっと特殊なストッキングをはいている。脚がぎゅぎゅっと引き締まったような履き心地で、楽とは言えないけれど背筋がぴんと伸びる。


「……!?右の方が全然細くねぇか?

それに細いだけじゃなくて……なんかイイ……」


山下さんが不思議そうに左右の脚を見比べてる。


「細く見えるのはストッキングの引き締めと、陰影の効果が大きいですね。サイドに影ができてセンターの透け感が強いから立体的に見えるんです。これは生地が『伸びない』から出来ることなんですよ。比べると左の方は少しのっぺりしてるでしょう?」


「要は見映えに特化したストッキングってことか?」


声をかけられた方を向くと、涼介はさっきよりずっと離れた位置にいる。


「そういうことになるのかな。昔はストッキングっていうとこれの事を指してて、元々はドレスアップのためのアイテムだったんだよ」


山下さんに壁の方に立つように言われて移動すると、携帯でパシャっと写真を撮られた。シャッターの音にビクッと立ちすくむ。


「山下、何してんだよ…!」


「この絵はキャッチーだろ。左右の脚の違いも分かるし、ショップのSNSにアップしたらバズるぜ」


「環の脚だぞ!?」


「うん、俺も最初は男の脚なんてと思ったけどさ。見てるとゾクゾクするし、写真映えする。脚だけ見てる分には誰も男とは思わねーよ。

もう公式サイトの準備はできてるんだろ?」


山下さんに言われるままに脚の角度を変えて、何回か写真を撮られる。気持ちがざわざわしたけれど、「売りまくって黒字化させるぞ」と言われると「撮らないで下さい」とは言いづらい。


「でもショップのSNSなんてやってないけど?」


「それは小夜子に話をつけてある」


小夜子さん……?


5分後、『アンルージュ』のSNSにはさっきの写真に「脚にかける魔法 #美脚 #ストッキング #セクシー」書かれてアップされていた。

涼介が「本当に写真アップしたのか」と若干どんよりした顔をしてる。


「『アンルージュ』はネットショップもSNSアカウントも無かったろ。今の時代にはあり得ない話なんだよ。

小夜子が頑固にネットでの販売に反対したから、譲歩して一部の商品だけ解禁することになったんだよ」
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