幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
涼介が普通に食事を続けるので私も同じように食べてみるけど、気になって味なんかわからない。


「意地悪……」


「本当に可愛すぎ。そういう反応されると、もっといじめたくなるんだけど」


絡んだ足が外れて爪先が地面に降りる。やっと解放されたと思ったら、


「続きは店を出てから」


と涼介が付け加えたので、自由になった足元とは裏腹に胸の苦しさが増してしまう。


その後に運ばれてきたデザートは甘酸っぱくて美味しいけど、これを食べ終わったらレストランを出ると思うと、お皿が空になっていくのを変に意識する。


「甘いもの苦手だった?」


「ううん、好きだよ。すごく美味しい」


「そっか」と笑った涼介にどこまで心の中を悟られているかは分からないけれど。


レストランの外に出た後に私の鼓動はすぐに伝わってしまったと思う。建物の影で涼介にきつく抱きしめられたからだ。


「帰るまで待てそうにない」


涼介の静かな低い声が頭に響く。胸が苦しいのにその甘い気配に逆らえなくなってくる。


「でも待って……なんか今は…っ。普通じゃなくて」


「それでいいんだよ。俺なんかずっとそうだ。環に触れるときはいつだって平常心なんか無くしてるよ」


唇が塞がれて小さく肩が跳ねる。柔らかく溶かすように触れる唇。少しだけ離れて、その次の瞬間には口の中まで熱くなる。蕩けるような感触は不思議と涼介の甘い声とよく似ていた。


そのせいなのか、初めてこんなキスをしているのに少しも嫌じゃない。いつの間にか体を涼介の肩に預けている。


「ん……っ」


「好きだ。自分でも訳が分からないくらい、心の中に環しかいないんだ。

環は俺をどう思ってる?」


「それは……」


口に出したら後に引けなくなりそうで怖くて、つい黙ってしまった。


「難しい顔するなよ、俺が環を差し押さえてる間だけでいいんだ。

『アンルージュ』の経営立て直しが終わるまでに環が俺を好きにならなければ諦める。

その時にはきれいさっぱり友達に戻ってやるよ」


その後は家に帰ってお風呂に入っても、ベッドに潜っても、キスの熱さと囁かれた言葉がいつまでも残っていた。
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