幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「この私を男扱いするなんて失礼な奴ね。今日はB面の姿とはいえ、」


「B面てなんだよ」


「あんたもA面の私を見たら腰抜かすわよ?」


「だからA面とかって何なんだよ……」


涼介は頭に手を当てて渋い顔をしてる。ちなみにA面というのは心の性別に添った姿の事で、私もまだ見たことはない。



「靴も買ったし最後はメイクだけど……あんたはこれだけで十分でしょ

ノーメイクで赤い口紅がサマになる女なんてそうそういないのよ。ホントにずるい顔してるわぇ」


メイクカウンターで唇に少し暗めの赤い口紅を塗られる。化粧なんて当然初めてで、これが似合っているのかどうか私にはさっぱり分からない。


「水瀬ったら可愛いわね。環がキレイになってるもんだから怒りたくても怒れないのよ。」


「怒るって?」


「そっか……あんたは私のこと女と思ってるから分からないのね。水瀬はさっきから私に嫉妬してるのよ。ふふ、愉快だわ」


嫉妬……?

そう聞いて急に顔が熱くなった。胸の奥が甘くて苦くて、なんだか涼介の顔を見れない。


「あらぁ、すっかり女の顔しちゃって。

……にしても水瀬ってピュアなくせに小器用な大人のフリしてるのね。焼きもち妬くとこも可愛いくてタイプよ。

今度A面で会って誘惑してもいいかしら」


「えっ、それはダメ!」


「ふふ、冗談よ」



小夜子さんは午後も仕事するため『アンルージュ』予定地に戻るそうだ。帰り際に涼介と何か小声で話していた。





「水瀬、本当にあなたに任せて大丈夫なのかしら?」


「オープン直前で何を不安になってるんだ?アンルージュなら間違いない。ブランドイメージも尊重して…」


「とぼけないでよ、店のことじゃないわ。
並みの男じゃあの子を守り切れない。それなら私の方がマシよ。

もし環を傷付けるようなことがあれば、すぐに返してもらうからね」


話していることは聞き取れなかったけど、涼介が難しい顔で考え込んでいたから、ランチを食べに入ったお店で聞いてみる。


「最後は二人で何の話してたの?」


「店の話だよ。そんな事より、あいつずっと俺を牽制してたけど本当にゲイか?」


「小夜子さんは、私にはお姉さんみたいな人だよ?」


涼介は眉をしかめる。その奥にある気持ちが小夜子さんの言った通り嫉妬なのかなと想像すると、憮然とした顔も不思議と甘く見えてくる。
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