幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
午後は涼介の買い物に付き合ってと言われていたから、それも密かに楽しみだった。


「何買うの?」


「鍋とか食器とか。足りてないだろ?」


調理器具が売られているショップに行くと、涼介は『日本工芸品』のコーナーで銅製のおろし金や南部鉄瓶など、マニアックなものばかり見ている。


「涼介は料理しないんだし、こだわり派の道具はいらなくない?」


「この工場の品物を仕事で取り扱ったことあるんだ。だから店で売られてると嬉しくてさ」


涼介はフライパンを一つ手に取って、興味深そう観察してる。


「これ使いやすそうだね。デザインもすっきりしてて……でも見て、かなり高いよ?」


「価格競争力はまだまだ課題なんだよな。インバウンド需要だけじゃ限界あるし、もっと広い層をターゲットにしないと」


「?」


結局、涼介の仕事の資料を兼ねるということで、本格派の調理器具をたくさん揃えた。キッチンに並べたら料理上手に見えそう。


(あ、これ可愛いな……)


ユルいタッチで動物が描かれたマグカップ。涼介の大人っぽい部屋に置いたらインテリアから浮きそうだ。


「ははっ、環は本当にそういうの好きだよな。そのハリネズミ柄の買うか?」


「涼介の部屋に合わないよ」


「そんな事ないって。ついでに俺のも買うし」


涼介が手に取ったマグカップを眺めて笑う。子供っぽい趣味を笑われてるのがなんだか悔しい。


「この柄は鹿かな。ちょっと環に似てる」


「似てない!!それにオカピだよ」


「ぶっ……。動物詳しい」


涼介はそのオカピの柄を選んで、買い物が終わる頃には二人とも両手いっぱいの荷物になっていた。


「環にまで荷物持たせて悪いな」


「ふふ、誰に言ってるの?現役の頃はこれよりずっと重たいの担いで、砂浜で何本もダッシュしてたんだよ」


「うわ、プロとは言え女子にそのメニュー…」


帰り道は実業団にいた頃のコーチの特訓を笑い話にしていたらあっという間だった。

家に帰ってからも馬鹿話を続けながら買ったものを片付ける。けれど、マグカップを手渡した時に、涼介の指先が触れて落としそうになってしまった。


「わ、ごめんっ。…割れないで良かったー。」


ドキドキしたのがバレないように背中を向けて包装紙を片付けると、体を引き寄せられる。


「涼…」


「そういう隙を見せられると、我慢できなくなるから」


少し眉を寄せた涼介の、いつもの穏やかさとは違う表情が甘い刺のように視線を釘付けにする。
< 49 / 146 >

この作品をシェア

pagetop