幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「かっこいいですね……」


「えっへへ、実はよく言われるんです」


私のだらしない笑みにつられて、佐藤様も緊張が溶けたように笑ってくれた。下着の専門店、しかも予約制の店なんて誰だって緊張してしまうので、まずはリラックスしてもらうのが大事。


お客様には家のように寛いで欲しいので、店では靴を脱いで頂くスタイルだ。毛足の長いラグが敷かれた店内に足を踏み入れると、佐藤様から「わぁ」と小さな歓声が聞こえた。


「友達に勧められて来たんですけど、胸が小さいからこういうとこのは合わないかもしれなくて……」


自信が無さそうな佐藤様。初めて来るお客様はかなりの割合で彼女と同じ不安を抱いている。


「大丈夫ですよ。むしろバストを育てたい人の方が向いているかもしれません。

それにカップも、アンダーサイズも目安ですから。バストは一人一人違いますし、同じサイズでも商品によって違いますよ。」


たいていの人はサイズを測っていなくて、きちんと測ると本人の言うサイズとは違う事が多い。佐藤様の背中には、キツすぎるブラの跡がくっきりと残っていた。これではむくみの原因になりそうだ。


フィッティングルームでサイズを測り正しい位置にブラをつけると、佐藤様のボディラインが立体的になり、背中も引き締まる。

そして、たっぷりとレースが付いたブラがとてもよく似合っていた。私には逆立ちしても似合わない可愛いデザイン。


「アンダー72のCですね、背中のベルト位置は低めに。わりと高い位置にずれてる人が多いんですよ」


佐藤様は鏡に映った姿を見て「私がC……?」と嬉しそうに呟いている。試着が終わると彼女の姿勢がすっと伸びて、最初に来た時の自信の無い顔とは変わっていた。


「下着って、ちゃんと選ぶとこんなに違うんですね……。付け心地も楽ですっごく快適で。しかもお洗濯のことまで教えて貰ってありがとうございます。」


「いえいえ、とんでもない。お買い上げありがとうございます。お直しが済み次第、発送いたしますね。」


ランジェリーは女性の心を強くする美しい鎧。

『アンルージュ』は、女性が心の底から癒されて、新しい自分に出会えるワクワクするお店であること。

社長が大事にしてきたポリシーは、今月末にお店を畳む時までずっと変わらない。


「こんなに素敵なお店なら、もっと早く来れば良かったな……。できればずっと通いたかったです。」


「そう仰って頂き大変嬉しいのですが……誠に申し訳ございません。」


大好きな場所が無くなってしまうのは淋しいけれど、今はただ、店員としてこのお店に立てる一日、一日を大切にしたい。
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