幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
結局山下さんのリアクションの意味は分からないままで、仕事を終えて帰宅すると私宛に荷物が届いている。
「小夜子さんからだ。どうしたんだろう?」
アンルージュのラッピングの箱を開けると、ブラとショーツのセット、キャミソールにパジャマ、さらにストッキングとガーターベルトなどがいくつも入っている。どれもお店でずっと眺めてきた私の大好きなデザインだ。
長い間お店に立っていなかったから、商品を眺めていると禁断症状のようにウズウズしてくる。
「そうそう、この肌触り」
一人なのを良いことに顔を近付けてしてシルクとレースの心地良い感触を堪能した。下着は何組もあって、箱の底にはカードが入っている。
『環へ
あんたのことだから多分今頃はショーツに頬擦りとかしてるんでしょうね、この変態。』
「わっ」
どうして見てもいない私のことが分かるんだろう。小夜子さんの呆れ顔が浮かんで、姿勢を正してメッセージの続きを読む。
『それで、気が済んだらクローゼットにしまおうとしてるんでしょう?
でも、もうダメよ。今まで大目に見てきたけど、これからは見せる予定が有ろうが無かろうが毎日必ずうちの下着を着ること。これはアンルージュの店員としての義務よ。
この前みたいにシケたパンツはいてたら減給するから、嫌なら今すぐ着替えなさい。
小夜子』
カードには真っ赤なキスマークがついていて、彼女らしく有無を言わせぬ迫力が漂っている。
「小夜子さん……」
減給だなんて脅すようなことを書いているけれど、
……でも。
小夜子さんは私が女の人の服を着られないのをずっと心配してくれていた。この前買い物に付き合ってくれた時の小夜子さんが、すごく張り切ってたのを思い出す。
「ありがとう、小夜子さん」
小夜子さんのちょっと怖くて優しいメッセージ従ってすぐに服を脱いで、お風呂に入るとあらためてキレイな下着を手に取った。
体格は大きいけど胸の小さい私にぴったり合うブラ。バストだか胸筋だか分からない程度のうっすらとした私の胸でも、アンルージュの下着をつけると何となく谷間ができる。ペアのショーツは、最小限の装飾ながらとっても可憐な印象だ。
「こうしてみると……女の人って感じ」
着てるだけで、自分の体が大事にされてるようで気持ちがふわふわする。機能性は知っていても、着た時の幸せな気持ちまでは分からなかった。
誰にも見せない部分だからこそ、素敵な下着を身につけると、自分のために手をかけている嬉しさがある。『ランジェリーは女性の心の鎧』ってこういうことなんだ。
「店員なのに、今まで全然分かってなかったんだなぁ」