幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「お酒飲みつつ仕事の話するのってアリなんですか?」
「どうせ会議室で話すような固い話題じゃないだろー」
言われてみると、確かに静かなオフィスよりも話しやすい。スケッチブックを見せながら夢中で話しているとあっという間に時間が過ぎていった。
「『女装する男性のためのサイズ展開』…って攻めてるなぁ。
確かに一定のニーズはあるだろうけど、アンルージュのブランドイメージを確立するまではまだダメ。気が早い」
「ダメですかぁ、良いと思ったのになぁ」
小夜子さんの事を思って考えたアイデアだけど、さらっと却下になってしまった。
「でもSサイズ専用のブラは良い案だな。俺もアンルージュの商品に何でAカップが無いのか疑問だったんだ。胸が小さい女なんていっぱいいるだろ?」
「いえ、あんまりメジャーなサイズじゃないんですよ。アンルージュも含めて、殆どのランジェリーブランドはAカップのブラ売ってないんです。作っても売れないから他のサイズと兼用するしかなくて」
「で、環くんはそのニッチなニーズを拾いたいって言ってる?」
「ええと、難しいことは分からないんですけど……。
『胸が小さくても買って良い?』って心配そうな顔でお店に来るお客さんが多いんです。できたらお客さんにそんな心配をしてほしくないなって思って。」
何を隠そう私もAカップだから、不安に思うお客さまの気持ちは良く分かる。
ちなみに、昨日着けたブラは小夜子さんが細かいサイズ調整をしてくれているから、私でもぴったり着けられるようになっている。
「だいたい、胸は大きい方が良いっていう風潮が強すぎるんですよ…!」
ビールをぐびっと飲んで主張する。久しぶりにたくさん飲んだので胃が熱くなってきた。
「……そーだね。まぁ気にするな、胸小さい娘が小さいの気にしてるのも、それはそれで可愛いぞ。デカイ方が良いっていって悪かったよ」
どうして山下さんが謝るんだろう?それに笑いを堪えてるみたいに頬がプルプルしてる気がするけど……?
「山下さんに謝って欲しいわけじゃなくて世間の風潮がですねー…」
「分かった分かった。とにかく、その調子で今月中に少なくともあと10本は企画考えとけよ。アンルージュの立て直しは環くんにかかってるんだからな」
「えー!?プレッシャー…」
「ばーか、今更だろ。前も言ったように俺はビジネスになる相手しか関わらない。オークや俺に助けて貰おうだなんて思うなよ」
「それは分かってますよ…。でもどうして山下さんは涼介と正反対なんですか?涼介は周りを助ける仕事をしてるのに、一緒に働いてる山下さんは人助けなんかしないって」
山下さんは口に含んだお酒が苦かったのか眉をしかめる。話すまでに少しだけ間があった。
「…『救われる』って感覚は人を無力にさせんだよ。惨めでカワイソウな存在だって、自分に嫌気がさしちまう。
救われたことない奴には分からないだろうけどな」
カワイソウ。
山下さんの言うことは、とぷんと音がするくらい腑に落ちた。私だって子供の頃から可哀想に見られるのを怖かってきたのだ。
「どうして…山下さんみたいなエリートの人がそんな事知ってるんですか」
「ははっ、俺エリートじゃねーし。
自分が救われていた事にも気付かなかった、間抜けなピエロだ」
「どうせ会議室で話すような固い話題じゃないだろー」
言われてみると、確かに静かなオフィスよりも話しやすい。スケッチブックを見せながら夢中で話しているとあっという間に時間が過ぎていった。
「『女装する男性のためのサイズ展開』…って攻めてるなぁ。
確かに一定のニーズはあるだろうけど、アンルージュのブランドイメージを確立するまではまだダメ。気が早い」
「ダメですかぁ、良いと思ったのになぁ」
小夜子さんの事を思って考えたアイデアだけど、さらっと却下になってしまった。
「でもSサイズ専用のブラは良い案だな。俺もアンルージュの商品に何でAカップが無いのか疑問だったんだ。胸が小さい女なんていっぱいいるだろ?」
「いえ、あんまりメジャーなサイズじゃないんですよ。アンルージュも含めて、殆どのランジェリーブランドはAカップのブラ売ってないんです。作っても売れないから他のサイズと兼用するしかなくて」
「で、環くんはそのニッチなニーズを拾いたいって言ってる?」
「ええと、難しいことは分からないんですけど……。
『胸が小さくても買って良い?』って心配そうな顔でお店に来るお客さんが多いんです。できたらお客さんにそんな心配をしてほしくないなって思って。」
何を隠そう私もAカップだから、不安に思うお客さまの気持ちは良く分かる。
ちなみに、昨日着けたブラは小夜子さんが細かいサイズ調整をしてくれているから、私でもぴったり着けられるようになっている。
「だいたい、胸は大きい方が良いっていう風潮が強すぎるんですよ…!」
ビールをぐびっと飲んで主張する。久しぶりにたくさん飲んだので胃が熱くなってきた。
「……そーだね。まぁ気にするな、胸小さい娘が小さいの気にしてるのも、それはそれで可愛いぞ。デカイ方が良いっていって悪かったよ」
どうして山下さんが謝るんだろう?それに笑いを堪えてるみたいに頬がプルプルしてる気がするけど……?
「山下さんに謝って欲しいわけじゃなくて世間の風潮がですねー…」
「分かった分かった。とにかく、その調子で今月中に少なくともあと10本は企画考えとけよ。アンルージュの立て直しは環くんにかかってるんだからな」
「えー!?プレッシャー…」
「ばーか、今更だろ。前も言ったように俺はビジネスになる相手しか関わらない。オークや俺に助けて貰おうだなんて思うなよ」
「それは分かってますよ…。でもどうして山下さんは涼介と正反対なんですか?涼介は周りを助ける仕事をしてるのに、一緒に働いてる山下さんは人助けなんかしないって」
山下さんは口に含んだお酒が苦かったのか眉をしかめる。話すまでに少しだけ間があった。
「…『救われる』って感覚は人を無力にさせんだよ。惨めでカワイソウな存在だって、自分に嫌気がさしちまう。
救われたことない奴には分からないだろうけどな」
カワイソウ。
山下さんの言うことは、とぷんと音がするくらい腑に落ちた。私だって子供の頃から可哀想に見られるのを怖かってきたのだ。
「どうして…山下さんみたいなエリートの人がそんな事知ってるんですか」
「ははっ、俺エリートじゃねーし。
自分が救われていた事にも気付かなかった、間抜けなピエロだ」