幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
山下さんは「格好悪いけど」と前置きして昔話をしてくれた。


「高校の頃はよくいる悪ガキだったんだよ。家が工場やってるもんだから、跡継ぎがクズで親が可哀想だってよく言われてた」


「山下さん、跡継ぎなんですか!?」


「今じゃ関係ないけどな。とにかく、噂話とかすぐ広がるような村社会でさ。

新しく引っ越してきた人にも町内会に入らないとか挨拶に来ないだとか、しょうもないことで難癖付ける奴らが多くて、

『下らねー嫌がらせしてんなよ』って怒鳴りつけたら、庇ったはずの相手にスゲー迷惑そうにされたんだ。

それがユイカさん。都内から引っ越してきた変わり者だった」


過去を思い出す山下さんの目付きは、自然と優しくなっている。


「でな、ユイカさんは虫を怖がるような都会っ子のくせに、家庭菜園やりたいってスカートにヒールで種まきなんか始めるから、結局俺が全部代わって。

引っ越してしばらくしても近所の道も覚えないし、大人のくせに何もできない人だと思った。けど、ユイカさんと話すと不思議と気が楽になるんだ。

俺が不満たれて『この町なんか下らない』とか言えば、『それなら出ていけばよくない?』ってあっさり言われて。

保守的な田舎だったから、周りは『親の工場を受け継いで守れ』言う奴らばかりでさ。
『そんなものに縛られて自分の人生捨ててどうするの?』ってユイカさんに言われた時はスゲー衝撃だったんだ」


「…好きだったんですか?ユイカさんのこと」


「そりゃもう、ガキだしすぐのぼせあがって、毎日のようにユイカさんの家に通いつめた。都会に出たくて勉強もしたし、自然と彼女の勧める大学にも受かった。

それで卒業式の日に、花束持ってユイカさんの家に行ったんだ。自分が稼ぐようになったら迎えに行くって、すっかり恋人のつもりで。」


「つもりってことは…」
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