幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
それからしばらく経ったある日のこと。

久しぶりに実家に近い地方都市の駅に降り立ち、イルミネーションのきらびやかな空中通路を歩いていく。行き先はこの辺りには一つしかない、大きなホテルのバンケットルームだ。


同窓会会場のドアを開いた瞬間に待っていたのは、想像以上の笑顔だった。




「キャーーーーー!たまちゃんカッコいい!!憂いがちな瞳サイコー!」


「あんたは永遠に私の王子様だわ、マジ抱いて」


「うわあ、ちょっと待った!『久しぶり』とか先に言いたい……わぁっ」


腕に飛び込んできた恵美ちゃんをぎゅっとハグする。恵美ちゃんは中学当時にはちょっとやんちゃな女の子だった。大きな瞳の印象はそのままで優しい顔になっていて、後で聞いたら今は二人のお子さんのママなのだそうだ。


みんな私の事を忘れてるんじゃないかなと心配だったので、温かく受け入れてもらえて嬉しかった。


「フフッ、可愛いよ恵美」


「わかっていてもこの破壊力…。ヤバいこれ以上無理だわ、浮気してる気分になる」


「だめだ離さないっ」


さらにぎゅっとすると耐えられなくなったように恵美ちゃんが吹き出す。背中越しに「恵美ったら独り占めしてずるいー。次わたし」と声が聞こえてきて、リクエスト通りに壁ドンするとお腹を抱えて笑ってくれた。

私のことを王子様扱いしてくれた女の子は、もうみんなとっくに本当の王子様との恋を知っていた。



「それにしても本当にたまちゃんって目立つね。今は背何センチあるの?」


「176だよ」


「やっぱ凄い高いや、今からでもモデルやれば?」


「あはは、そんなイケメン?」


「じゃなくてさ……」


こんなにみんながイケメン扱いしてくれるなら普段通りの格好の方が良かったかなぁ、と慣れないスカートの裾を摘まんでみる。


今日は私にしては異常と言えるワンピース姿だ。どうにも落ち着かないけど、涼介がこの日のために買ってくれたのだから今日くらいは頑張ると心に決めていた。



その涼介の姿は、まだここにはない。

前日までは一緒に行こうと言ってたけど、休日も仕事が詰まっていて遅れることになったのだ。涼介は相変わらず忙しい。


別の方から「げ、俺より背が高い」と聞こえてきて、振り向くとスーツ姿の男子が…というより今は男性と言った方がいいのかもしれないけれど、何人か集まって話している。



「たまきん。女の子独り占めしないでよ」


「えへへごめんね、カッコ良くてモテて」


「うわムカつく!」


ワンピースに口紅までつけてもこの扱いである。涼介が私の事を可愛いと言うから最近は感覚が変になっていたけど、私はやっぱりイケメンなのだ。自分で言うのもなんだけど。
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