幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「見えないって!!」


「そういうの安売りするなって言ったろ」


外から来たばかりでまだ冷たい指が瞼を覆う。大きな手のひらの感触は、いつの間にか肌が覚えていた。


「どうして」


「俺だけの環が減るから」


目を塞がれたままで、耳許から拗ねたような声がする。

周りから「フゥー!」と囃し立てるような声が聞こえてくるけど、涼介はそういうのを気にしないらしい。顔をぶんぶん振るとやっと手を離してくれた。



「お前らってやっぱそういう関係なの!?」


興味津々のみんなに詰め寄られて、言葉に詰まってる間に涼介があっさり「そう」と言った。


「まじかよ!」


「……だったら良いんだけどな、残念ながらまだ口説いてる途中」


「………!!」


口をパクパクさせてると涼介に不満そうな顔で覗きこまれる。


「何で環が驚くんだ」


「だって言い方!!」


口説かれるというのは大人の女性にこそ似合うもので、およそ私に当てはまるとは思えない。元々は差し押さえるとかそういう話だったし…!

涼介のオープンな態度のせいか、いつの間にか周りに女の子も集まってきて注目されている。


「大人になっても水瀬はやっぱ水瀬だわ、ウケる」


「ウケるのか?」


「ウケるけど何か泣ける。あんたってやつは永遠にたまちゃん一筋でさぁ……。式には私も呼んでよね」


「やだよ、環のウェディングドレス姿は一人占めしたい」


「…まじであんた筋金入りだわ。あーー、水瀬ってこういう奴だったよ思い出した」


涼介がみんなに肩を叩かれたりして、「たまちゃん絡むとただの馬鹿」「愛のクセが強い!」とやけに生暖かい視線に取り囲まれている。意外に涼介もみんなにいじられるのに慣れてるようだけど…?
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