幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
暗くなった倉庫に荷物を運び入れ、ママの事を考えている間に作業は終わっていた。天井は吸い込まれそうなほど高く、倉庫全体がしんと静まり返っている。
「驚いたな…噂通りだ。やっぱりいたんだ」
予想外に声をかけられたので振り向くと、知らない男の人だった。
「どうしたんですか?」
「ここに男を連れ込んでるバイトがいるって聞いたから。悪い事してるんだって?」
「悪い事って何ですか?前に山下さんに来てもらったことあるけど、駄目だったのかな」
質問したら、その人は「うわ、認めてるよ」と小さな笑みを浮かべた。
「ここで荒稼ぎしてるんでしょ。それとも男漁りの方が目的?
あ、大丈夫だよ、僕の言うことも聞いてくれたら誰にも言う気はないし。」
「いくら?」と指で数字を示している。この人が何を言ってるのかいまいち分からない。
「何の話か知らないけど、人違いだと思いますよ」
「警戒しなくていいって。案外、君みたいな子がって思うと逆にそそるよね。この服は誰かの趣味?」
ジャケットのボタンに手をかけられたので強く振り払う。その人が私を押さえつけた時に、バランスを崩して尻餅をついた。
「ちょっと、やめ…」
「こんなことしてるの、会社にバラされたくないだろ?」
首筋に触れられた時に我慢の限界が来て、油断してる相手を反動をつけて振り落とした。
「お兄さん、悪いね。手荒な人には同じこと返す主義なんだ」
関節をきめて締め上げると、声にならない悲鳴が聞こえてくる。
「…って…、いっ」
「今はこれで勘弁してあげる。次に近付いてきたら骨折すると思うから、気を付けてよね」
ほどほどのところで手を緩めると、その人は大急ぎで逃げていった。こんな時に嫌な人に会うなんて今日はついてない。小さくため息を吐いて服の埃をはらう。
「すげー強いな、環くん」
不意に上の方から聞き覚えのある声がして、見上げると倉庫の棚に山下さんが座っていた。二階くらいの高さからジャンプでしゅんっと降りてくる。