幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「こんなところにいたんですか!?」
「とっちめるのが早すぎて間に合わねーよ。いやー驚いた驚いた」
そう言ってるわりに驚いた様子もなく、山下さんはいつも通りのテンションだ。
「あの男、見かけない顔だから外部の業者だな。コンプラ部門に突き出しとくよ」
「いえ、これで懲りてくれればそれでいいですよ」
そう言うと、仕事の時以上に鋭さを増した視線で睨まれる。
「さっきの話ホントに聞いてたのか?変な噂がばらまかれてるんだよ。環くんをおとしいれようとしてる奴がいることぐらい想像つくだろ」
……見ないふりしていたいのに。
「もしそうだとしたら、きっと俺に嫌われる理由があるからですよ。そんなの、嫌うなって言ったって無理でしょ。」
ママに私を嫌いにならないでと言っても意味がないのと同じだ。私の何かがその人を苛立たせるなら、文句を言える訳がない。
言葉にすればするほど傷付くのだから、できるならそっとしておいてほしい。
「環くん、相手が誰か想像ついてるな?」
「違います」
「だから庇ってるのか?」
「そんな優しい人間じゃないですよ。自分がどれだけ疎まれてるか、確めるのが怖いだけです」
長い沈黙の後、山下さんは苛立ったように「あー」と髪をぐしゃぐしゃと乱す。
「…ったく、涼介の阿呆が」
「?」
「何でもない、こっちの話」
山下さんはそれ以上何も言わなかった。ただ『涼介』と名前を聞いて、不安がよぎる。
「あの…今見たことは涼介に言わないで貰えますか?」
「あのなぁ、せめてアイツくらいには知らせとかないとお前が危いぞ」
「いつも心配かけてばかりだから、これ以上涼介の負担になりたくないんです。俺は見ての通り人並外れた怪力だから、大丈夫ですよ」
ただでさえ涼介にはママとのことで心配をかけ過ぎてる。仕事も忙しい涼介を、余計なことで悩ませたくない。