幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「赤字なんだろ。まずは売り方を変えるところから始めないとな」


ぽかんとした私の代わりに、「そういう話は代表の私に相談しなさいよね」と小夜子さんが話を引き取ってくれる。


その後は二人で奥のカウンセリングルームにこもってずっと話をしていた。長い時間が経った後、部屋から出てきた涼介に「話はついた。環は来月からここでバイトな」と名刺を手渡される。


「どうして涼介が力を貸してくれるの?」


「約束したろ、お前の居場所くらい俺が何とかしてやるって」


「そんな約束したっけ…?」


古い記憶を辿っても何も思い出せない。物覚えの悪い私に涼介は微かに笑っている。


「環の居場所は俺があげる。

やっと見つけたんだ。いいから、俺に甘えてろ」


本当に……?

これからも……このお店を続けられるの?

『アンルージュ』は、ホントは何より手離したくない私の居場所だったのに、今まで平気なフリをして諦めていた。


別れを惜しむ分だけ辛くなるから、自分の気持ちに嘘をついてずっと笑っていたのに。


「ありがとう……涼介、ありがとう。

どうしよう、こんなに嬉しいことってないよ」


「ばーか、大袈裟なんだよ。泣くのはせめて黒字化してからにしろ」


「うぅぅ……」


その後は涼介に笑われても全然涙が止まらなかった。泣き腫らした顔を見られて、また涼介にからかわれる。


「まだ営業時間内だろ?店員が泣いてたら客が驚いて逃げるぞ」


「ぐすっ……うっく」


「……落ち着いたら、プレゼント用の品物を選ぶの手伝ってほしいんだけど。お前の趣味で決めていいから」


その言葉を聞いて止めどなく流れる涙がすっと引っ込んだ。


「…………まじで!」
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