幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「で、涼介。またちっちぇー工場見てきたのか?…ふーん、OEM契約ねー。出張先どこだっけ?」


「福岡」


「お土産は?」


「無いけど」


午後9時のオフィスはさすがにがらんとしている。涼介は山下さんが話かけるのを「仕事の邪魔するな」と鬱陶しそうに追い払った。


「つれないなぁ涼介、次行ったらちゃんと買ってきてよ。俺、明太子干した酒のツマミ好きなんだけどあれ何て言うんだっけ?」


「知らない、お前の好物の情報とか死ぬほどどうでもいいから。…普通はもう少し悪びれないか?」


「何で俺が悪びれなきゃなんないのかなぁ。環くんと倉庫にいたくらいで」


私は二人から少し離れた席にいるのに、動揺してコーヒーを溢してしまった。


「白々しい」


涼介が睨むのを山下さんが笑ってる。二人は同期入社で気を使わない間柄らしいけれど、笑う山下さんにも涼介にも、どことなくピリッとした間合いが漂っている。

さっきから涼介とまともに会話できてないままだ。もしここに山下さんが居なかったら二人して沈黙してた気がする。


涼介、出張していたのにこんな遅くに会社に戻るなんて、相変わらず忙しそうだ。疲れてるように見えるけど大丈夫かな…?


あ…
じっと見てるうちに涼介と目が合ってしまった。



心臓の音がうるさくなって、頭の中が混乱する。普通にすればいいのに私は何を焦ってるんだろう。でも普通ってどんな?改めて考えると全然わからない……!
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