幼なじみの甘い牙に差し押さえられました

「あ、小夜子さんどーも。こんばんは」


山下さんの声に思考が途切れた。小夜子さんから電話がかかってきたようで、資料を見ながら携帯で話をしてる。


「はいはい、オープン記念品のプロトタイプの件?デザイン通りでしょ?発注急いだんですよー、なんと言っても環くんの発案で…」


どうやら販促品のガーターリングの話題のようだった。何度も打ち合わせと試行錯誤を繰り返して小夜子さんがデザイン起こし、サンプルの作成を工場に依頼していた。



「え?全然ダメ?」

山下さんの声に緊張が走る。静かに聞いていると電話先から小夜子さんの声が聞こえてきた。


「だからー、リボンの縫い目が内側にあって脚に当たるのよ。あれじゃ擦れて使い物にならないわ。それに強度を上げるために着け心地が悪くなってて…」


「ウチの基準でのチェックは一応通ってるんですけどね。

それにこれはあくまで販促品で売り物じゃないんで、予算に見合った品質だと思うんですが。」


「それでもこの着け心地はないわよ。このままならプレゼントだろうが何だろうがお客さまに配ることは許さないわ。せっかくのリバーレースが台無しよ!」


声が大きくて耳が痛かったのか山下さんが顔をしかめて携帯を遠ざける。その後も話を続けていたけど、小夜子さんと山下さんの意見はすれ違ったままだった。


「スケジュール的に着用感を調整する修正は厳しそうですね。

…分かりました、じゃあ一旦発注は取り止めて、オープン記念品は別の既製品を…」


山下さんが淡々と話すのを聞いて、足元からざわざわと焦りが這い上がる。お客さまに喜んで貰えるプレゼントが作りたくて山下さんと急いで形にしてきたのに、このままでは全てなくなってしまうかもしれない。
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