幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「小夜子さん、ガーターリングの着け心地は急いで直しても直らないの?」


山下さんから携帯を借りて小夜子さんを問いただす。


「あら環。アンタもそこにいたの。そう言ってもねぇ。また工場でサンプル作って直してたら何日かかるか…」


「じゃあ小夜子さんが工場に行って直接話すのは?」


「むちゃくちゃ言うわね…。でも駄目よ、私はオープニングスタッフの採用面接で予定が埋まってるし、第一、先方にも失礼よ。仕事には進め方ってもんがあるの」


小夜子さんに切々と諭されて、やっぱりどうにもならないんだと悔しさが込み上げる。私が気付いていれば結果は違ったかもしれないのに…。

携帯をぎゅっと握りしめると、山下さんが何か思い付いたように付け加えた。


「あのさ、小夜子さん。現場で確認するの環くんにお願いしたらどうですか?

現地でフィッティングしながら不具合直せば、次のプロトタイプくらい2、3日でできるでしょ」


「環?…そうね、環が良いと言うなら大丈夫よ。でもそんな事して工場の方は平気なのかしら?」


「それはこっちが責任もってやるんで」


ぼんやりしてる間に山下さんと小夜子さんの話が終わっていた。どうやら私がガーターリングのチェックをするっぽいけれど…


「俺にそんな難しいことできるんでしょうか?あの、俺はどこに行けば…」


「小夜子さんのオッケーが出てるんだからできるに決まってる。場所は長野の紡績工場。悪いけど、急ぐから今から行くぞ」


「え?今から?」


「心配するな。俺が連れてくから寝てる間に着いてるよ」


山下さんが涼介の方に振り返る。


「そういうわけで涼介。出張許可を二人分よろ」


「あほか、こんな夜遅くに出張なんかさせられるか。」


「そこで公私混同するなよ。アンルージュのオープニングにケチ付けたくないだろ?どっちにしろ環くん借りてくからな!」


山下さんに「ついてこい」と腕を引かれる。


……涼介に何か言わなきゃ。オフィスを出るときにもう一度目が合った。
< 82 / 146 >

この作品をシェア

pagetop