幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「行ってくるね」


「こんな時に、遠くに行くなよ」


いつもより少し影のある目元。涼介にはたくさん心配をかけてしまったから、せめて少しでも安心してほしい。


「平気だよ。最近は山下さんが凄い厳しいんだ。ついていくだけで必死で、落ち込んでる暇もなくて。だから、もう心配しなくて大丈夫だよ」


「だから、それが」


少し眉を寄せた涼介が躊躇うように言葉を切る。その時アンルージュの資材一式を抱えた山下さんが廊下から顔を覗かせた。


「社用車貸し出しの締め切り時間までギリなんだよ、俺の文句言ってる暇があるなら急げよー」


「文句じゃないですよ!鬼指導ありがたいなーっていう話ですからねっ」


「ははは、いい度胸だ。十分文句じゃねーか」


荷物を抱えたまま、器用に肘で小突いてくる。山下さんから段ボールを一つ受け取って、社用車の停めてある地下ゲートを目指した。


夜のオフィスビルは静かで、照明が控え目に落とされてる。そんな中、涼介が残っているオフィスが灯台のように遠くまで光の尾を伸ばしていた。
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