幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「山下さんのお母さんはもしかして、俺のこと女性に見えてるんですか?」


さっきの会話で不思議に思ったことを聞いてみると、山下さんは「そこから説明がいるのか」と呆れている。


「だから舞い上がってるんでしょ。結婚の報告しにきたのかって勘違いしてさー」


「この服で初対面の人に女って見られたことなかったんですけど」


今は仕事着のスーツ姿。小夜子さんには申し訳ないけれど、男のふりをしてるときはアンルージュの下着も着けてない。髪も伸びてないし何も変わったつもりはないけど。


「そういえば環くんは雰囲気が変わったよな。今は初見で男って思う奴いないんじゃない?」


「そうですか?」


どの辺がどう変わったんだろう?見た目が変わってしまったらバイトにも影響しそうだ。自分の顔に手を当てて考え込んでると、山下さんは「自覚しろよ」と笑っていた。


……



疲れのせいか、その後の記憶は曖昧で…

気がついたら私は子供の姿で、一人で公園のベンチに座ってる。空が夕陽に赤く染まり始めると、賑やかだった公園が嘘のように静かになった。


目の前をお母さんと手を繋いだ男の子が通って、夕飯はハンバーグが良いとか魚は嫌だとか、私には想像もつかないような贅沢なことばかり言ってる。

うちの夕飯はいつも袋に入ったパンが置いてあって、それを一人で食べる。他のものを食べたいなら自分でなんとかするしかないのに。


「美味しくお魚が食べれるように、今日はフライにしてあげるから。頑張って一緒に食べよう?」


「ヤダ!夕ご飯なんか食べたくない」


二人の会話を聞いて、ただでさえ空腹の胃がきゅうっと絞られたように熱くなる。


「このワガママっ。私ならそんなふうにママを困らせたりしないのに!」


思わずその子に飛びかかると、すぐに私は容赦のない大人の力で取り押さえられた。


「全く、なんて子供なの」


怖い顔をしたそのお母さんは、よく見るとおばあさんと言っていいような年齢だ。怯える男の子はよく見ると子供じゃなくて、


「……山下さん!?」
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