幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「おはよー、野田のじーさん」
「おー久しぶりだな放蕩息子!東京の会社はリストランされたんかぁ?」
「『リストラ』な、覚えたての横文字を得意気に使うなよ」
「やっぱりクビになったんか」
がはは、とおじいさんが笑って、山下さんも否定するのが面倒だと笑って流してる。従業員の人とはすごく仲が良さそうだ。
その様子に頬を緩ませたのも束の間。
「親父、『アンルージュ』の注文のリテイクの件で話したいんだけど。急いで対応しないとキャンセルになんぞ」
「知らん帰れ!お前と話す気はない!」
作業場の奥にある事務室の扉をノックすると、お父さんに大きな声でピシャリと断られてしまった。まるで私とママみたいで、山下さんの内心を思うと胸がぎゅっと痛くなる。
「だ、だ大丈夫ですか?山下さんに辛い思いさせてまで無理して仕事をするわけには……」
「まぁこんなもんだろ、頑固ジジー相手だから。
親父は俺がここを継がずに就職するって言ってからずっとヘソ曲げてんの。ガキっぽいだろ?」
驚いたことに、山下さんはいつもの調子で笑ってる。平気そうに見せてるけど、辛い気持ちを隠してるのかもしれない。
「就職してからっていうことは…何年も、ずっと?」
「そーそー、6年くらいまともに顔合わせてないかも。いい加減しつけーよな」
「お父さんとそんな長い間確執があったんですか!?すみません、山下さんの気も知らずに…」
お母さんと仲が良いから、幸せな家庭に育っていいなと決めつけて羨んでた。
「ごめんなさい、本当に」
「ん?環くんが謝ることなくない?
親父が拗ねてて面倒くさいだけで、確執なんてカッコいいもんじゃないから。そんな心配しなくていいって。」
山下さんは「マジでやめてよ」と苦笑する。その様子はどうやら強がりではないようだ。
「どうしたら、お父さんのことをそんなふうに思えるんですか?」