幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「そんな頑張らなくていいよ。出来上がるまで休んでな」


「大丈夫ですよ。レース織ってるところ見れるし、糸とか染料とか、見てるだけで楽しくて!」



山下さんがペットボトルのお茶をぽんと投げてくれる。


「ははっ、生き生きしてんのな。やっぱりウチの工場で働いたら?
…っていっても、ここは持ってあと十年ってとこだろうけどさ」


「山下さんは、本当にご実家を継がないんですか?せっかく素敵な工場なのに」


「冗談言うなよ。会社で働いてるとウチがどれだけ取り残されてるかよく分かる。ここはもう手遅れだよ」


「でも、涼介がアンルージュにそうしてくれたみたいにオークの力を借りたら…」


「前に言ったろ。経営者が会社を維持できないなら、つぶれたらいい。
他から与えられる救いなんて結局嘘っぱちなんだよ」


だけど…。私だって山下さんの言葉を忘れたわけじゃないけれど、工場で働く山下さんが楽しそうだから、このままにするのは勿体なく思える。

山下さんって時々びっくりすくほどドライなんだよね…。
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