幼なじみの甘い牙に差し押さえられました

「そうだったんだ…」


確かに涼介は冬になるとよくカギを忘れてた。間抜けだなと思うだけで、それが私のためだなんて全く想像もしなかった。

ノートには番号がふってあって、一番古いのがこの学習帳。鉛筆書きの太い文字が少しずつ大人びて、学習帳が大学ノートに変わる。日常の些細なことが書かれているのに、読んでいるうちに勝手に涙が出た。



〝7月20日 環の通知表がやばい。体育5 美術4 家庭科4 あとはひどい。勉強させないと高校行けなくなる。 〟


「なにおぅ……このチビ介め」


頭悪いのは事実だけど、中一にして受験の心配までされてたんだ…。そういえばよくノートを貸してくれたし、テスト前には無理やり勉強させられた。

今思えば、先生に怒られない成績をキープできたのは完全に涼介のお陰だった。転校した後は酷かったもんな……。



〝9月13日 最近の環は背がでかい。つーか、チビ介ってなんだよ〟


〝9月14日 環が一年でもうバスケのレギュラーになって、女子が環のことかっこいいって騒いでる。なんかムカつく〟



「ふふん、羨ましいかチビ介」

泣きながら笑った。私に対抗心を燃やしてたなんて、涼介にもけっこう可愛いとこがある。


〝環の家がどうだとか文句言ってた奴が、手のひらを返したようにかっこいいって言うなよ。ムカつくのは俺だけか〟



「あ……」


〝ムカつく〟と書いた理由が想像と全然違かった。涼介はこんなことで怒ってたの?当時の私には何も言わなかったのに。

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