Sign of Love
 外まで迎えに出ようとしたとき、ビルの前にタクシーが一台止まった。すぐに後部ドアが開いて、男の人が降りてきた。

サイズ感の良いチャコールグレーのスーツ。短い髪。大きな荷物を雨に濡れないように抱えて、傘も差さずにこちらに走ってくる。想像よりもずっと若い。

「あの、坂巻さんですか」
 わたしの声に、その人はふと顔を上げる。

「はい。……もしかして、佐倉さん?」
 優しそうな目を見たら急に言葉が出なくなって、わたしはただ頷いた。

「ご不便おかけして申し訳ありません」
 坂巻さんはそれだけ言って、頭を下げた。一度は引っ込んだはずの涙がまた溢れそうになった。

 ここまで来てくれた坂巻さんにお礼の言葉を掛けなければいけないのに、それすらできないまま、並んでエレベーターに乗った。

 坂巻さんは何も言わなかった。どんな風に声をかけられても泣き出してしまいそうだったから、何も言わない彼の優しさがありがたかった。
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