Sign of Love
 ……絶対に、自分が見られていたなんて思わないんだろうなあ。改めて坂巻さんの腕時計に目を向ける。紺色のシンプルな文字盤がいかにも坂巻さんらしい。

「そういえば佐倉さん、今日はみんなと飲みに行かないんだ? 顧客管理課は毎週金曜、飲み会かと思ってた」

「行きたかったんですけど、ちょうど給料日前だし、今日はやめておこうと思って」

「ああ、そっか。そういえばそんな時期だったな」たった今思い出したように、坂巻さんは言った。

 会話が途切れる。さっきからずっと、何を話したらいいのかばかりを考えている。

訊きたいことならたくさんある。休みの日は何をしているのかとか、どんな食事が好きなのかとか、買い物はどこへ行くのかとか、何色が好きなのかとか、全部。

どんな些細な事だって知りたいのに、思いつくどれもが、突然訊いたら相手が驚いてしまうようなことばっかりだ。

 息がかかりそうな距離の中黙りこんでいたら、車内アナウンスが流れた。次はもう阿佐ヶ谷だ。
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