Sign of Love
「坂巻さん、覚えてますか。本社来る前、私坂巻さんにお世話になったことがあって」
 今があの話をするタイミングだと思った。テーブルの下に隠した手に力が入った。

「あの時は、ちゃんとお礼もできなくて――」
「そうだっけ?」

 少し細めた目がとても優しい。あの日、坂巻さんをビルの入り口に迎えに行った時のことがフラッシュバックした。

「本社に来て挨拶をした時、本当に初対面みたいな感じだったし、もう覚えてないかとか思ったら、言えなくなって。ごめんなさい。あの時はありがとうございました」

「もしかして、今までずっと気にしてたの?」
「……はい」

 坂巻さんは、ばつが悪そうに目を伏せた。

「だったら謝るのは僕の方だ。『いつかはお世話になりました』なんて言うのも変だし、わざわざ佐倉さんに昔のことを思い出させて嫌な思いをさせたくもなかったから、何も言わなかったんだ。僕のことなんて覚えてないかと思ってたし」
< 51 / 81 >

この作品をシェア

pagetop