願わくは、雨にくちづけ
(本当にマメな人。私よりも煌さんの方が忙しいはずなのに)
彼は、いくつか店舗を構える和菓子店だけではなく、東京駅前のビルや他の複合施設にも入っている料亭も経営し、時々取材を受けることもあって多忙な日々を送っている。
それでも、一緒に過ごす時間を週に1度は必ず作り、会えない間は連絡をして繋がりを持ち、できるだけ時間を共有しようとしてくれる。
立花にとっては〝普通のこと〟らしいが、伊鈴にとってはそれが特別なことに感じられた。
それに、昨夜のように、自分でも知らなかった姿を彼の手で暴かれることさえ、幸せな時間と思えるのも事実だった。
――東京駅にある料亭に、開店時間前に顔を出した立花は、伊鈴からのメッセージを確認してから、1日のタイムスケジュールに目を通した。
この後は、世田谷に住むご婦人に呼ばれている茶会に行かねばならない。
先代から立花の和菓子を贔屓にしてくれている八神家は、服飾業界の最大手であり、彼が日頃袖を通している着物や店員の和装制服も八神ブランドのものだ。
茶会に呼ばれている男性は立花だけなので、女性相手にいつも以上に気を使うのだが、これも仕事のうちと割り切っている。