願わくは、雨にくちづけ
立花は勝負を挑むようなまなざしを彼に向けつつ、姿勢を正した。
着物姿の男が改まったせいで、新井も客先と話すよりも緊張を強いられたように息をのむ。
「初めてお会いしましたのに、このようなお話をするのも失礼を承知で申し上げます」
「はい……」
「先日、伊鈴にプロポーズをしました。今、彼女は真剣に考えてくれていて、私は答えを待っているところです。ですので、新井さんの気が済むまで彼女を想い続けることも含め、どうか今すぐに諦めていただきたい」
「えっ、あの」
さらに動揺する新井に、立花は決意を畳みかけるように口にする。
「好きだから付き合いたい、略奪したいというレベルの話ではありません。こちらは一生を添い遂げる覚悟なんです。ですから、もう手を引いてほしいのです」
「つまり、俺が邪魔だと?」
「そうですね。分かりやすく申し上げれば」
要約した新井に、立花も遠慮なくそれを認めた。