願わくは、雨にくちづけ
新井は、ふうっと大きく息をつき、背を丸めて項垂れた。
面と向かって言われると、自分の想いなど到底立花の熱量には及ばず、身を引く以外に選択肢はない。
「十河さんに振られても、なかなか諦めきれずにいました。毎日顔を合わせるし、あんなことがあっても変わらずに接してくれるせいで、もしかしたら少しは希望があるのかもなんて勝手に思ったりして……」
(そういう気持ちになるのが、わからないでもないが)
立花は、新井の心情を聞かされて1年前の自分を重ね見た。
たった1日過ごしただけなのに、強く惹かれて待ち続けた自分と似ているからだ。
「でも、今日立花さんにお会いして、お話をして気づかされました。やっぱり、あなたには敵いそうにありません」
新井はハッキリと負けを認め、立花が差し出した手を握り、しっかりと握手を交わした。
「これからも、仕事の仲間として伊鈴をよろしくお願いします。それから、このことは彼女にも内密にしてください」
「もちろんです」
ふたりは約束を交わし、社屋を去る立花を見送ってから新井も上階へ戻っていった。