願わくは、雨にくちづけ
――その週末、伊鈴は南麻布にある立花邸にやってきた。
昼時ということもあり、迎えに来てもらったついでにスーパーに寄り、一緒に食料品を買ってきた。到着するなり、伊鈴はエプロンを着けてキッチンに立ち、オムライスとサラダを作っている。
「煌さん、本当に今日はお休みで大丈夫なんですか?」
タブレットを操作しながらソファで寛いでいる立花に、伊鈴は声をかけた。
(忙しいとか、大変だとか、あまり言わないけど、業績が安定していたって多忙に変わりはないはず……)
つい先日、千夏と食事をした帰りがけに、彼が経営する料亭の前を通ると、木曜の夜にもかかわらず盛況で満席の案内が店頭にあった。
自分のために時間を割くことを厭わない彼に、無理をさせているのではないかと思ったのだ。
「大丈夫だよ。全部予定通りにこなしてきたし、今日は店と会社からの報告とメールチェックくらいだから」
タブレットから顔を上げて微笑みかける立花は、伊鈴と過ごせると決まってから、予定を上回る進捗で業務を済ませてきたのだった。