願わくは、雨にくちづけ
「煌さん、私、たぶんすごい我儘を言うと思うんですけど、いいですか?」
「いいよ、言ってごらん」
食事と片付けを済ませ、ソファに並んで座った伊鈴は話を切り出した。
この1年、我儘を言って困らせてみてと言われたことが何度もあったけれど、今回ばかりは本当の我儘だ。
「煌さんが大きな覚悟の上で決めた人生に、添い遂げる自信がないんです」
(この前聞かされた話もあるし、1年一緒にいただけで、長い未来のことまで考えなくちゃいけなくなったんだから、それもそうだろうな……)
立花は彼女に大きく頷きながら、伊鈴が思い悩むのも当然と思った。
「ちなみに、伊鈴は仕事を続けたい?」
「……続けたいです。まだ具体的な期限も決めてないですけど」
「仕事が好きなのは分かってたから、俺も奪いたくはないって思ってるよ」
伊鈴は、立花の考えを聞いて幾分かホッとした。
寿退社になる可能性がないとは限らないけれど、どちらにしても後悔のないようにしたいと思っていたからだ。